テレビ リングは究極の恐怖映画

すっげー怖い映画。
しかも、後々までその怖さをひきずる呪いのような映画。
「リング」は、ホラー映画を見慣れた僕であっても、心拍数が上がったままドキドキが治まらなかった最高の恐怖映画だった。

「リング」は、原作・鈴木光司の<呪いがビデオで広がっていく>というアイデアが効いたホラー作品である。
フジテレビで一度TVドラマ化され、1995年8月11日にオンエアされている。このTVドラマは、脚本を「Night Head」の飯田譲治が担当したことで、カルトっぽいものに興味がある人間の目をひくことになる。特に呪いのビデオの映像は、念写的な気味悪さがよく出ていて、強い印象を受けた。
今回の「リング」とその続編「らせん」のデュアル・ムービーでは、飯田譲治は「らせん」の脚本・監督にあたっている。しかし、映画版「リング」のあまりのパワーに、「らせん」はつじつま合わせの添え物に終わってしまっていた。

劇場版「リング」は、知る人ぞ知る「女優霊」を撮った中田秀夫が監督。
低予算の「女優霊」でさえ、かなり怖い。あとで思い返すたび、いや〜な感触が甦ってくる。
その彼が今回、すでに一度TVドラマ化された題材を、拡大ロードショー公開される予算で料理するのだ。どんな映画に仕上がっているのか、興味がわくと同時に、2度は観たくない怖いフィルムの誕生を予感していた。そして、期待通りTV放送しても決してビデオに録画して残しておく気になれない(呪いがこもってしまいそうで、部屋に置いておきたくない)作品になった。

中田秀夫監督は、人がどんなものに気味悪さを覚えるか、どういうタイミングでそれを出すと恐怖を定着させることができるかを、よく知っている。
ホラー映画的な痛快さでなく、うっかり見えてはならない霊的なものを見てしまったり感じてしまった時のような、生理的にいやーな感じを与えるのがうまい。

映画は、原作やTVドラマに捕らわれず、純粋に怖い映画を作ることに集中したのがよかった。原作のアレンジとして効いていたのは、<呪いがビデオで広がっていく>というコンセプトを、女子高校生の間で噂になっている都市伝説にした点だ。<呪いのビデオ>は、現実の都市伝説として十分にありそうなリアリティを持っている。この導入部によって、ウソでしょ?と感じながらも、もしかしてマジかも?と思わせる、日常的な接点をまず観客に与えている。また、主人公が女性になっているのも、説得力が出た。

呪いにかかった人間を写真に撮ると顔がゆがんで写るというのも、すごくいやなアイデアだった。現実的で見慣れたものが、一部ゆがめられていることの動揺や嫌悪感。この映画は、現実的な接点をしっかり描くことで、恐怖を映画の中だけで完結させないいじわるさに満ちている。

たとえば、テレビ。この日常的な光景を、いかに怖い空間にするか。どんなに悲惨な事件や災害を報じても、テレビを観る者は、ディスプレイ画面が壁の役割を果たした絶対的安全の中で傍観してしまうものだ。その結界が崩れたらどうなる?安全でないとしたら?
その点が、このストーリーの怖さになっている。ビデオ映像を観ただけで、死が訪れる。死を告げるのも、このテレビである。傍観者でいられないのだ。

呪いのビデオの映像は、TVドラマ版に比べて、かなり短い内容になっており、抽象的でよく分からないものになっている。それを、画面の内容を解析するという理由で、何度も何度も観客にみせる。ビデオ信号が切れる寸前、井戸の端に人間の手らしいものが一瞬映っていることを、いやな予感としてインプットさせていく。さらに布を頭に被った男の姿をインプットさせる。顔を隠している者は、死者である。それが立っていることの不気味さを網膜に焼きつける。
意味の分からないものを分かろうとする観客は、この映像をしっかりと頭に入れてしまい、ビデオを観てしまった者に降りかかる呪いを共有することになる。
映画の中のビデオという映像の2重化によって、映画の世界を現実として認識させる強い力が生まれるのだ。

音響効果や画面構成のしっかりとしたところは、さすがに助監督として映画の現場にいた人ならではの職人芸だ。フィルムの逆回転によって、気味の悪い動きを見せるなんて、デビッド・リンチのようなセンスも持っている。
全編なにかの気配を感じるノイズ感は、人間の心理的恐怖を見事に映像化させた「シャイニング」にも近い。

まだの人は、ビデオ化される前にスクリーンで観てください。 ビデオで観るなんて、なんか、すごく、いやぁ!
*ビデオ化されてから観てみたら、劇場で観た時の方が全然怖かった。画面への集中力が違うんだね。

リング
 1997年「リング」「らせん」製作委員会
原作:鈴木光司(角川ホラー文庫版)
監督:中田秀夫
主演:松嶋菜々子/真田広之/中谷美紀
配給:東宝
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