年に1、2本は、<よく出来た映画>というものに巡り会える。パーフェクトな出来でなくても<好きな映画>もある。この「ファイトクラブ」は、そのどちらでもありなおかつ<惚れ込んだ映画>だった。ここ数年で僕にとって一番の<大傑作>だと言い切っていい。
しかし、誰にとっても<大傑作>とは言えないだろうな。かなり観る人間を選ぶ映画ではある。
ブラッド・ピット主演作というカテゴリーで観ると火傷するかもね。タイトルや断片的な映像から、アクション映画を期待した人にとっても訳わかんない映画だと思う。じゃあどんな人に向いているかといえば、「トレイン・スポッティング」が好きな人にはおススメ二重丸。そして<アッパー系>という言葉の意味が分かる人にはおススメ三重丸の映画。

ブラッド・ピット扮するタイラーが、これから殴り合う男達を前にして宣言するファイトクラブのルール「第1条:ファイトクラブについて話してはならない」に従って、このページでは映画のラストに用意されたオチについて、ネタばれしないよう書きました。

ドラッグ用語の<アッパー系>とは、ハイテンションでどんどんスピード・アップしながら気持ちよくなっていくような感覚。
「ファイトクラブ」を観た人間から、前半はテンポがよくて面白かったけど後半訳が分からなかった、という感想を聞くことがある。
テンポがいいだって?それだけかい?

ノートン扮するサラリーマン(ちなみにジャックというのは彼の名ではない。役名では"ナレーター"となっているよね)が、自分自身に自信が持てない分、ブランド品や高級家具に自分の価値を転化させた高級マンション。そのマンションが爆発するシーンを覚えているかい?
もうひとつ。飛行機の中で、非常事の対処方法を描いた人物イラストを指して、パニックを起こすのが普通だろう時に薄笑いを浮かべているのは、非常用酸素吸い込んでハイになってるからさ!とタイラー(ブラッド・ピット)が指摘してたよね。そして飛行機が爆発する妄想シーンがあっただろ。
この2つは、ストーリーを伝えるだけなら、ノートン扮するサラリーマンの独り言だけでも済んでしまうんだよ。なのに、異様なまで克明に爆発シーンをみせてくれてた。へへへ、気持ちよくなってきたかい?とべる準備はできたかい?って画面そのものが語っているんだよね。
「男らしさ」を極端な破壊活動というカタチで描く後半はぶっとびすぎているかもしれない。けれども「ファイトクラブ」は、内容とともに観客自体の意識が暴走するタイミングを待って、気持ちよく酔った次の状態までをご親切にも用意してくれているんだ。

まぁ、全編を通して<過剰>であることがこの映画のポイントだから、それもまたフィンチャーの戦略の1つなんだろう。一般人が引いてしまうギリギリの線をねらって、エピソードの1つにあった良識ある人に喧嘩を売る難しさを、作品で実践しているのかもしれないし。

そう、もうひとつギミックがあった。
ノートン扮するサラリーマンが、前半部で足を運ぶ空港のロビーやグループ・カウンセリングの場に、一瞬タイラーが半透明で映っていたよね?何回かは明らかにこっちを見ている状態で。
サブリミナルという言葉はちょっと懐かしい響きがあるけど、後半に至るとぶ準備として、無意識下にくわせるオカズを用意してくれちゃってるんだ。へへへって感じ。

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