NYのグラフィティ
JAM ON THE GROOVE

HIPHOPってなんだろう?
自分は今HIPHOPダンスをかじっているけれど、それは単に、カッコよく踊りたい!ビートに乗って体を動かしているのが気持ちイイ!からでしかない。
前評判で、この「ジャム・オン・ザ・グルーヴ」のステージこそHIPHOPそのものだ!と聞いていた。プロ・ダンサーの動きを見るだけでも僕には充分なエサだけれど、そのバックカルチャーを知ることはさらにディープな間柄になれる気がして、すごくエキサイティングなことだ。

「ジャム・オン・ザ・グルーヴ」は、70年代にストリートで生まれたHIPHOPというスタイルは人生に対してポジティヴなものだ!というメッセージを込めて、ニューヨーク・オフ・ブロードウェイ・ミュージカルとして完成されたものだ。
HIPHOPには4つの要素がある。現代のパーカッションとしてのD.J.、歴史の語り部としてのMC/ラッパー、現代の象形文字であるグラフィティ、そしてダンスだ。
グラフィティというとニューヨークの地下鉄や壁に描かれたイリーガルな落書きで、ラップと言えば2PACに代表されるようなギャングスターの世界を連想してしまうよね。しかし彼らは、HIPHOPをレスペクトに値するカルチャーとして、クリエイティヴな行為であると投げかける。白人文化が意味もなく優位になってしまう地で、自分たちのカルチャーを自分たちの方法で作り上げていくダイレクトなメッセージ、その精神がHIPHOPなのだ、と。
僕には、その精神を充分に分かるだけの血がない。
だけど、自分が好きなダンスが、音楽が、なぜ存在しているのか少しだけ答えをもらったような気がして嬉しかった。

ステージは、グラフィティの背景を前にD.J.のパフォーマンスから始まり、HIPHOPの4つの要素を伝えるMCに引き継がれ、「すげ〜!」を連発するダンスで構成されている。
とくに、関節の柔らかい動きでロボットのように動くダンスと、頭のてっぺんを地につけて回転するブレイクが、息が止まってしまうほどすごかった。また、ジャッキー・チェンの酔拳をモチーフにしたダンスは、まさにあの映画通りになめらかな動きで、しかもダンス・パフォーマンスになっているところがイカしていた。

肉体感がしっかりあるのに、信じられないくらいに柔らかく力強い動き。空気が存在していないかのような足の軽さ。
映画『フラッシュ・ダンス』で初めてブレイクダンスをみたときの驚きを、生でホンモノを見ている!という感動に押し上げてくれた。
僕があんなことをトライしようと思ったら、全身骨折がいいところだろう。まず、首がへし折れて、頭頂がへこむね。
現在流行りのハウスみたいなクールさはないんだけど、ホットなんだよね。

メンバー全員が、ほぼ全編踊っている。 このダンスを、毎回同じクオリティでやるためには、相当な訓練と肉体管理が必要なのだろう。プロフェッショナルは、体にムリがかかる動きをクッションで受け止める筋肉操作を心得ているらしいけれど、肉体の芯に宿るパワーの計り知れなさには驚きを通り越したものがあった。
パンフをみると、メンバーはそれぞれ、振り付け師やダンサーとして、一流の仕事をこなしている人たちだ。
彼らが築いてくれたHIPHOPカルチャー。自分がそこに接していられることを嬉しく思うステージだった。


1998年5月2日赤坂BLITS 公演をみて

RETURN TO REDZONE