矢追純一のUFO番組を観て育った人間にとっては、アメリカ政府がUFOについての情報を隠蔽していること、地図に載っていない軍事基地エリア58のこと、催眠術によって宇宙人にさらわれた経験を語る人たちのことなど、一般常識のような感覚で知ってるよね。
そういう情報をどこまで信じるかは別にして、FBIが＜事件＞として常識では説明できない不可思議な現象を扱っていく、という切り口が魅力的だった「Ｘファイル」。

第１シーズンの頃は、元ネタは本当にあったことなのでは？と思わせるリアリティを生み出すストーリー展開のうまさに、完全にハマってしまいました。この不可解な事件を専門に扱う「Ｘファイル課」の捜査官モルダーとスカリーの２人も、回を追うごとに魅力を増していったしね。
第２シーズン以降になって、ポイントで挟み込まれるUFOと政府の陰謀ネタの回は、すごいテンションで盛り上がっていったのですが、ドラマのクオリティが驚くくらい高まっていく反面、リアリティが薄らいでいきましたね。

この「Ｘファイル　ザ・ムービー」は、ＴＶシリーズの第５シーズンと第６シーズンの間に位置します。
まったくＴＶシリーズを観ていない人にも理解できるような１話完結型の内容ですから、同じＴＶシリーズの映画化である「ツイン・ピークス　ローラ・パーマー最期の７日間」で、意味不明な時間を味わってしまった人でも安心です。

しかしですね。「Ｘファイル」ファンである僕の期待が大きすぎたからなのか、この映画版を絶賛することはできませんでした。現時点でＴＶシリーズの第４シーズンを観終わっていない状態なのですが、その範囲に限ってもシリーズ中最高のエピソードとは言い切れません。

だいたい、オープニングを紀元前のエピソードで始めるなよ！今の時制から始めなきゃ、リアリティが台無しじゃん！
そして、「Ｘファイル」が全米ＴＶネットワークFOX-TVの看板番組で、これが20世紀FOXの映画だからって、20世紀FOXのヒット作「エイリアン」「インディペンデンス・デイ」を彷彿させるようなシーンを作るのはどうかなぁ？
そういう観せ方しかできないってワケじゃないだろうに。少なくてもＴＶ版じゃそこまでの予算はないだろうから、別の観せ方をしていたと思うと残念でした。

たしかに映画ならではの大きなスケールで、新事実も明らかになり、モルダーとスカリーの関係もちゃんと描かれているのですが…。
ＴＶシリーズがあれだけ映画的だったのに、実際に映画になってみると、映画的なテンションが保たれていないんですね。ＣＭタイムで展開のメリハリをつけていたＴＶシリーズと違って、映画はテンションを保ったままラストまで突っ走らないといけないのに。
「ジョー・ブラックをよろしく」の181分は納得できましたが、「Ｘファイル　ザ・ムービー」はあと10分短くしてシェイプアップすれば良かったと思います。

まぁ、キツイことを書きましたが、根本的には「Ｘファイル」のファンですから、同じくファンしていた人は観ておいたほうがいいでしょう。
「Ｘファイル」の魅力は、エピソードの内容もさることながら、扱う事件に対するモルダーとスカリーのアプローチ方法が違うことや、お互い命をかけてまで相手を守るのに、ロマンスに発展しない関係がいい、ってところも重要ですよね。
今回、あわや２人がキスするか？という展開があるのですが、ちゃんとヒネってくれてます。そうでなくっちゃ。
例によって２人の行動は、法務大臣に報告できない内容として扱われてしまいますが、事件を追って全米各地どころか南極大陸にまで移動しちゃう交通費ってどうなっているんでしょう？まさか自腹？自腹切ってかどうかは分かりませんが、命を危険に晒してまでもスカリーの救出に向かうモルダー。この２人の関係って、本当にカッコいいです。

もし映画版第２弾が制作されるのなら、映画だからってヘンに気張らずに、２話連続のＴＶシリーズのような感覚で作ってもらいたいものです。

Ｘファイル　ザ・ムービー（THE X FILES - FIGHT THE FUTURE）
1998年 20世紀FOX映画提供 121分　シネマスコープ
字幕スーパー翻訳：戸田奈津子
1999-01-04 日比谷映画