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愛の破片 98-05-10

マリア・カラスと全ての歌手たちに捧げる---
というクレジットのある映画『愛の破片』を観てきました。

ニュージャーマン・シネマの映画作家ヴェルナー・シュレータが、敬愛する3人の歌手と、オペラ演出の仕事で親しくなった歌手たちをパリ郊外の修道院に招待したのね。数々の歌曲を聴かせながら、「愛」や「死」についてのインタビューを挟んで、自己表現として歌を選んだ彼らの人生観や愛を感じとっていくわけです。
そんな内容の、ゴージャスで美しい映画でした。ドキュメンタリーともちょっと違う、監督のオペラへの敬愛から生まれた個人的な映画といってもいいかもしれない。

僕は、オペラについてはまったくの無知なんです。
マリア・カラスの歌声さえ聞いたことのない、情けないヤツです。(*注1)
しかしこの映画に出演した歌手から発する「声」に、すっかり酔いしれてしまいました。まるで1つの生命体のように、自由で存在感のある「声」。そこには、深い感情がいくつも込められていて、その波動が僕の感情をなでていく。
豪華な装置に飾られた舞台の上ではなく、修道院の部屋の中で歌うというシチュエーションが、「声」の存在をよりクリアーにしています。
ものすごくシンプルな映画なのです。なのに、すごく深い。

個人的には、85歳になるマルタ・メードルの歌うチャイコフスキー「スペードの女王」、セルゲイ・ラリンの歌うベートヴェン「フィデリオ」が気に入りました。特にメードルの声の質感が、高齢でありながらも硬質な太さがあってセクシー。 またボーイッシュなソプラノ歌手、ジェニー・ドリヴァラの声がたまらなく心地よかった。
そしてこの映画の目玉である伝説のソプラノ歌手アニタ・チェルケッティ。引退後、30年間行方の分からなかった彼女をカメラの前に登場させました。
最後に絶頂期の録音を一緒に聞きながら、彼女は口を合わせ、まるで同時録音をしたかのように自らの歌に陶酔し一体化していきます。なんて感動的なシーンなのでしょう。人生のあらゆる破片が、融合して1つの存在になっていくかのようなこの瞬間。
チェルケッティは、正式な録音は2つしかないそうです。多くのライヴ音源が海賊版で出回っているようですが、これって映画『ディーバ』を思い出させない?

マスコミ試写では、ラストで拍手が起こったそうで。
僕は、青山スパイラルホールで開催中の「第7回レズビアン&ゲイ映画祭」で観たのですが、この会場は映画を上映するのにベストなところは言えないんですよね(映画祭としてはAOLやUNITED ARROWSなどがスポンサーになってがんばっています)。できれば、東京国際映画祭のオーチャード・ホールで観たかった!録音がTHXで、日本ではドルビーSRのプリントのようなので、ぜひドルビーSRが再生できる劇場で観ることをおススメします。
この作品は、6月13日よりBOX東中野(ここはドルビーSR設備があります)で公開が決まっています。

注1)さっそくNOBからご指摘いただきました。映画『フィラデルフィア』でトム・ハンクスが涙を流しながら陶酔して聞いていたのがマリア・カラスの歌だったんだって。なんだ。聞いたことあるじゃないですか(^_^;


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