DIARY
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妖しい宿 1997-9-11

深夜残業をするとき、よくビジネス・ホテルに泊まります。
贅沢〜!と思うかもしれませんが、たいての場合、タクシーで帰るよりも安いんだもん。体も楽だしね。
といっても、いっつもホテルに泊まっているワケではなく、職場の床に寝袋敷いて寝ていることもあります。でも僕は、朝、熱いシャワーを浴びないとスイッチが入らない人なので、そういう日は夕方になって銭湯に行くまでどんよりしてます。

会社の近隣にはけっこうビジネス・ホテルが建っているのですが、最近24時近くになって電話をしても、空いてないんですよ!こーんなヘンピなとこで、誰が何のために泊まっているのだー!って超疑問。

その日も、どうやっても終電では帰れないのが分かって、部下の白石くんが必殺デジタル部御用達ホテル・リストを片っ端から当たってくれたんだけど、どこも満室!
なんで〜?週末でもないのにぃ!
でも、会社に泊まるのだけは嫌だった。会社に泊まったら、明日は休み!ってくらい疲れていたから。
電話をかけまくっていた白石くんの態度が変わった。どうやら宿が取れたらしい。

しかし。そのホテル名、長い築地生活でも聞いたことがない。場所は、よく知っているビジネス・ホテルのすぐ隣にあるという。え?そんなところにホテルあったっけ?
しかも、チェック・インが午前3時頃になると伝えたら、部屋のカギを開けておくので、勝手に入ってください、とのこと。なんか、あやしい。
…もしかして、ヤバイとこなんじゃないのぉ?僕たち3人は顔を見合わせた。
でも、選んでいる余裕はなかった。宿がとれただけラッキーだ。何事も経験だ!いけいけ!いっちゃえ!妖しい経験はホームページのネタになる!(笑)

さて。3時になったので、タクシー飛ばして、目印となっているよく知っているビジネス・ホテルの前に来た。そして、改めて、ホテルなんかないことを確認した。
このまま夜の街に放り出されても困るので、僕たちはあきらめずにその周辺を探してみることにした。
多分僕らが描いているホテルのイメージとは違うのだろう。でも予約は入っているわけだから、きっとどこかにそのホテルはあるはずなんだ!
ない、ない、ない! と、そのとき、何気なく見上げた視線の先に、雀荘の看板みたいなホテルの看板があった。
え?ここ?これってただの雑居ビルじゃないのぉ?それに、フロントどこ…?

1階が居酒屋になったそのビルの階段を勝手に2階にあがってみると、ドアナンバーの入った扉が並んでいた。電話で言われた部屋番号のドアのノブに手をかけてみると、…たしかに空いていた。

中は、必要最低限のホテルの佇まいになっていた。
妙にスプリングの存在がリアルなベッド。毛布でなく、ふとん。
妙な富士山の絵がかかっていた。灰色のアウトラインだけで描かれた富士山。不吉な印象しか与えない、その色合いは見事だ。
そして、ユニット・バスが妙だった。ドアを開けるとすぐに便器があり、その奥に浴槽があるのだ。この位置関係の不自然さもさることながら、その便器がドアに背を向けるように設置されていたのが妙だ。多分、ドアを開けて右に便器左に浴槽というユニットを使って、無理矢理右端にドアを付けてしまったのだ。

ええ〜い!細かいことを気にしていたら睡眠時間がなくなる!僕は、とっとと寝る準備を進め、部下の大輔におやすみを言ってベッドに入ってしまった。

朝、大輔の話だと、僕は横になってすぐに寝入ってしまい、直後いきなりうなされていたそうだ。彼は、起こそうかどうするか散々迷ったそうで。
その報告を受けた時、僕の目は、壁にかかった富士山の絵に釘付けになっていた。
やはり、これは…、不吉な絵だった。


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