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シネマ・メディアージュ 2000-05-04

ゴールデンウィーク、みなさまいかがお過ごしですか?
Y2K問題の影響でこの時期海外旅行に出かけた人が史上最高となったようですが、そもそもこの連休を「黄金週間」と命名したのは日本映画業界でございますから、映画を観るというのが王道でございましょう。

僕が映画を観る時って、単館ロードショー以外は銀座地区の映画館と決めています。
映画会社が密集していることもあって、施設的に一番金のかかった筆頭ロードショー館が集まってますからね。上映プリントも一番状態のいいものをかけると言われているし。
でも今回は、4月22日にお台場のフジテレビ前にオープンした「シネマメディアージュ」に足を運んでみたのでした。「シネマメディアージュ」は郊外に多く存在するようになった、シネマコンプレックス式映画館。関東最大の13スクリーンを誇るソニー・グループの複合映画館です。
ここは全席指定なので、チケットカウンターで観たい映画の観たい時間を指定しておけば、行列に並ぶ必要もなく映画を観られるのが便利!「今日はいっぱい映画を観るぞー!」って日にはスケジュールを組みやすくていいね。
席がゆったりしているし、スクリーンも観やすいので、けっこう気に入りました。

今日観てきたのは、ディカプリオ主演の「ザ・ビーチ」と昨年からYasuhisaの強力なプッシュがあった「アメリカン・ビューティ」。

ディカプリオ主演のリゾート映画かい?みたいなポスターの「ザ・ビーチ」。 まぁ、実際その通りなんですけど(笑)
楽園でハッピーに暮らすということは、現実的にどういう事態になるのか?を、どこか醒めた視点で描く作品でした。
バンコクの都市伝説となっていた幻のビーチ。都市伝説となっていたのは、楽園を観光客が押し寄せる俗世界にさせないために<秘密>を貫いて暮らすコミュニティが存在していたからだった…。
なんかこういう内容って、70年代までに語り尽くされたようなものだと思ってたけど、パラダイスを求める旅イコール自らの精神の解放というテーマは、実はバーチャルなものに埋め尽くされた今の時代こそニーズのあるものだったんだね。
正直言えば、この映画、主演がディカプリオでなく無名の若手俳優の方が成功したように思います。ディカプリオはヒーローでない等身大の若者をいい感じに演じていましたが、「ファイトクラブ」におけるブラピのように、彼でなければ映画が成立しないという必然性がないんだよね。取り替えの効く役なんだ。だったら、まだ顔を知られていない役者がやった方が、もっと内容をリアルに受け止めることができたのにな、と思ったのでした。
エンドクレジットの画像の使い方がちょっとおシャレだなと思ったら、TOMATOが関わっていたんだ。でもTOMATOだったら、もっとすごいことやってほしかったかも。

今年のアカデミー賞を総ナメにした「アメリカン・ビューティ」
タイトルから、アメリカ的な美人に恋する中年男性の話かいな?と思っていたら、アメリカ中流家庭の冷え切った内実を、笑っちゃうくらい軽快なタッチで描く人間ドラマなのでした。下世話な話ではあるんだけど、語り口がスマートなんだよね。役者が見事に役にはまっていて、キャラクター1人1人の描き方がすごく丁寧なんですよ。

決して心を開きあえない家族という身近な他人。それぞれが自分の人生を幸福なものにしていきたいと願いながら、家族の中での自分の役割を全うしなくてはならないストレスに、歪みきった広告みたいにうそっぽい幸せを演じなくてはいけない。
<幸せな家庭>って幻想は、結婚当初や子供がまだ小さい頃には実感できるものだったのに、いつからか何かが欠けていって「最後に頼れるのは自分だけ」という割り切りをしなくてはならない。<ときめき>のない人生。その味気なさ。でもその<ときめき>が復活して、我を通そうとした時の生き生きとした滑稽さ。ああ、耳が痛い(笑)でも楽しい!

「平凡と言われるのが一番辛い」とつぶやく美人顔の少女。風に舞う白い紙袋を美しいと言ってビデオに撮影しておく少年。成功者になるためには、自ら常に幸福感を保ちつづけることだって、自分に言い聞かせている奥さん。ああ、なんて気持ちが分かってしまうのだろう。「もしかして否定されてしまうかも」という恐れから、無闇に他人にさらけ出せない声を、この映画はうまくすくいあげていました。
そんな価値観の違う人々が抱く「美しいもの」のイメージ。なにに「美」を感じるかで、その人の願望や人間性が見事に浮き彫りにされるんだよね。
これは、本当によくできた映画でした。

で、この映画の中で一番健全な人間が、隣に住んでいるゲイのカップルだっていうのが、世間体に縛られたストレートな人々へのすごい皮肉になってました。
タイトルの「アメリカン・ビューティ」は、庭先に咲いていたバラの品種のことらしいんだけど、リアルな展開の中に挟まれる妄想シーンに、アメリカ的なエロスの比喩としてうまく使われていました。
あと、そうそう。怪しげな大佐夫妻が観ていた軍隊もののTVに、若き日のレーガン大統領が一瞬映っていたのも、いかにも<アメリカ>を皮肉った<オカズ>でしたね。

ついでに、この日以外に観た映画についてもちょっと書いておきましょう。

「トイ・ストーリー2」
PIXERの作るCGアニメーションは、デスクライトの親子が信じられないくらい感情豊かに描かれた「LUXER Jr.」をニコグラフのCGショーケースで観て以来、圧倒的なクオリティに驚かされぱなしです。今回も続編としては、快挙ともいえるよく出来た作品に仕上がっていました。3DCGという無機質なものに生命を吹き込む表現力は驚異的だし、ストーリーの練り上げ方もまさに「一流」の仕事。
子供が成長していくことでいつかは見捨てられてしまうかもしれないという不安、ウッディが実はプレミアものの人形で、日本のミュージアムが高く買い取るというそれっぽい設定、信頼関係、自分の存在価値…。人形が生きているようにしゃべって動くというファンタジーに、これだけの奥行きを持たせることができる「本気さ」に拍手です。
ちなみに有楽町マリオンの日劇プラザでは、アジアで唯一、フィルムではなくハードディスクのデータを直接スクリーンに投影する「DLPシネマ」方式で上映しています。いやぁ、色や質感の鮮やかさが驚くほどでした。この作品のようにデジタルで作られた作品は、デジタルのままで観るべきだね!ほんと、全然違うから。

「イグジスタンス」
大好きなクローネンバーグ監督の待望の新作。脊髄に調節穴をあけて、そこに接続した有機的なゲーム機で、バーチャルな世界を体験するという内容。感触的には「ビデオドローム」に似たものがありました。
作品に込めたヤバイくらいの衝撃は、数年前の「クラッシュ」に比べても弱かったのですが、クロネンバーグらしさは思い切り入ってましたね。
ハイテクな世界を描いているのに、画面に登場するもはことごとく有機的で内蔵的。 生き物のようなゲームポッド、骨でできた銃、得体の知れない生き物…。
さぁ、アヌスに異物を挿入するようにコードを差し込んで、乳房を愛撫するようにポッドをいじくりまわして、ゲーム世界に入り込もう。
あーもー、なんでこの人はなんでもかんでもこういう世界にしちゃうのでしょう?
展開されるゲーム自体は、こんなゲーム誰が面白がるんだろう?ってものですが、クローネンバーグ好きには、久しぶりに与えられたオフィシャルな餌って感じの作品でした。

「アナザヘヴン」
「Night Head」の飯田穣治が、TVドラマやWEBサイト、アトラクションなどマルチ展開で進めるプロジェクトの映画版。
映画監督としては「Night Head」「らせん」に比べて随分成長したように思います。マナブと麻子の描き方はけっこう良かったですよ。ただ、悪意の塊を描こうとする世界観が、TVシリーズに比べてちょっと狭い気がしました。TVシリーズまで含めて1つの世界観を描き出そうとしているなら、映画だけを取り上げてなにか言うのは早いかもしれないね。

人を転移する<悪意>ってさー、WOWOWでこのGWにオンエアされているドラマ版「多重人格探偵・サイコ」と同じ展開でもあるんだよね。をいをい、西園伸二が転移しとるぞー!って映画観ながら思ってしまいました。きっと飯田穣治と大塚英志って仲悪いんだろうなぁって勝手な想像をしてしまいました。
でも<悪意>の映像化で遙かに上行っているのは、「アナザヘヴン」でも「サイコ」でもなくTVドラマ「QUIZ」だね。



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